涅槃図の絵解き①

 このたび涅槃会開催に合わせて、涅槃図の絵解きを数回に分けて行っていこうと思います。涅槃図には様々な仏、人物、動物が描かれており、それぞれに深い意味が込められています。一つ一つを紐解いていくことで、近く開催される涅槃会をより深く体験していただければ幸いです。


 なお、心行寺の涅槃図には人物名の記載がありません。そこで他の作例との比較により人物名を推定しました。あらかじめご了承ください。


お釈迦様


 お釈迦様は涅槃図の主人公です。画面中央、宝台の上に頭を北に向けお顔を西に向けた姿で描かれています。これを「頭北面西(ずほくめんさい)」と言います。


 日本で死者を北向きに寝かす「北枕」の風習は、このお釈迦様の故事によります。


 では、なぜお釈迦様は「頭北面西」のお姿で涅槃に入られたのでしょうか。


 お釈迦様は弟子の阿難尊者にこう言われました。


 「阿難よ、お前は私のために沙羅双樹の間に座を設け敷物を敷いて、枕を北にして西に向かって寝られるようにせよ。我が法は、私の滅後に北方に流布して久しくとどまるであろう」

『遊行経』第二


 お顔を西に向けたことについては、太陽崇拝説が有力で夕日に向かって祖先の霊を拝むためと言われます。浄土宗の開祖、法然上人もご往生の際は頭北面西のお姿であったと伝えられています。


 「〔法然上人は〕正しく臨終に臨み給う時、慈覚大師の九条の袈裟を掛け、頭北面西にして、光明遍照十方世界、念仏衆生摂取不捨の文を唱えて、眠るが如くして息絶え給いぬ」

『四十八巻伝』三七


 われわれ浄土宗では、太陽の沈む先、夕陽の彼方に阿弥陀如来の住まわれる世界、極楽浄土があるとして、西方を拝むことはとりわけ大切にしています。


 また、このような逸話も残されています。


 お釈迦様は阿難尊者に「水をくみ取れ」とお命じになり、阿難尊者が川に水を汲みに行くとちょうど五百の馬車が通ったばかりで水が濁っていました。しかし、その時奇跡が起きて阿難尊者が再び水を汲みに行くと不思議と水は清らかに澄んでいました。阿難尊者はさっそくその浄水を汲みお釈迦様に差し上げました。


 この故事から、日本のお葬式で広く行われている「末期の水」の風習が始まったといわれています。

 ※雪山に住む鬼人による供養という説もあります。


<参考文献>

 WEB版新纂浄土宗大辞典

 WEB版 絵解き涅槃図 - 臨黄ネット

 『よくわかる絵解き涅槃図』 竹林史博著 青山社



 

 心行寺の涅槃図は縦270センチ×横160センチの絹地に肉筆で描かれた巨大な涅槃図です。軸心に延宝七年二月十二日(1679)十一世弁誉保残和尚代に、「芝・田町・札乃辻・表具師庄兵衛」と記録があります。



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浄土宗 心行寺

横浜市都筑区にある浄土宗のお寺、「心行寺」のホームページです。当山は「紅葉のお寺」として親しまれており、晩秋には境内が赤や黄色に染まります。横浜市営地下鉄「センター南」駅より徒歩7分、豊かな自然と静寂に包まれた四百年の伝統ある古刹です。

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