涅槃図の絵解き(補足)

涅槃図と「猫」

京都東福寺本



 涅槃図には多くの動物が描かれていて、その数は52種類に上るといいます。しかし、多くの涅槃図には「猫」が描かれていません。なぜ涅槃図に猫が描かれないのでしょうか。


 涅槃図に猫が描かれない理由として、代表的な言い伝えがありますのでここにご紹介します。まず前提として、沙羅双樹にかかっている「袋」=「薬袋」としてお話します。


 すでに摩耶夫人の絵解きで紹介しましたが、摩耶夫人は天界から不老長寿の「薬袋」を持参しましたが、その薬袋は沙羅双樹の枝に引っかかってしまい、お釈迦様に届きませんでした。


 それを見た一匹のネズミがするすると沙羅の木に登り、なんとか枝をかみ切らんとかじり始めました。しかし、それを見た猫がネズミを追い払ってしまい、結局薬袋は届くことなくお釈迦様はお亡くなりになってしまいました。


 このことから、猫は涅槃図に描かれなくなったといいます。他にも、


 猫は仏教に対する信仰心がなかったから

 猫は死者の肉体を持ち去り食べてしまうから


 など、江戸期を通じて「猫=悪性」説が広く信じられていたといいます。当時、お葬式の場に猫が近寄ることは不吉とされていました。


 しかし、猫=悪性説は近世に入ってからの俗説であり、明確な根拠はありません。


 江戸時代の浄土宗の碩学、四休庵貞極上人もこのことを憂慮され『涅槃像随文略讃』(享保十八年1733)の中で、次のように述べています。


(現代語訳)

 五十二類の中に猫ばかりは来なかったという。何故にか理由は知らない。もし臨終の人の正念を乱し、障礙をなすので猫を除くというのであれば、涅槃図に描かれている天魔や羅刹(=速疾鬼のこと)を来たらしむべきではなかろう。猫が正念を乱すとの説は、人情をもってわけも知らぬ人が作り出した妄語が広く世に流布したものである。


 そもそも、鎌倉~室町時代にかけての涅槃図には猫の描かれた涅槃図も多く存在しています。(広島浄土寺本~文永十一年、など)


 また、江戸期に入ってからでも作者の意図で猫を描くものも存在します。(芝増上寺本~元和十年、など)


 お釈迦様のみ教えはすべてのものを分け隔てなく救済してくださるものであり、猫だけが涅槃の会座に参加できない理由はありません。


 心行寺の涅槃図はどうかというと、肝心の猫が描かれている部分が欠損しており確認できませんが、猫好きな住職としてはやはり猫も描かれていてほしいなと思っています。



<参考文献>

WEB版新纂浄土宗大辞典

WEB版 絵解き涅槃図 - 臨黄ネット

『よくわかる絵解き涅槃図』 竹林史博著 青山社



 心行寺の涅槃図は縦270センチ×横160センチの絹地に肉筆で描かれた巨大な涅槃図です。軸心に延宝七年二月十二日(1679)十一世弁誉保残和尚代に、「芝・田町・札乃辻・表具師庄兵衛」と記録があります。



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浄土宗 心行寺

横浜市都筑区にある浄土宗のお寺、「心行寺」のホームページです。 当山は「紅葉のお寺」として親しまれており、晩秋には境内が赤や黄色に染まります。 また、境内には水琴窟がありお手を清める際は、水の滴る美しい音色も併せてお聞きください。 横浜市営地下鉄「センター南」駅より遊歩道を歩くこと7分、 豊かな自然と静寂に包まれた四百年の伝統ある古刹に、是非一度足を運ばれてはいかがでしょうか。

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