涅槃図の絵解き⑦
涅槃図には多くの動物、鳥、虫、霊獣なども描かれています。お釈迦様の最期のご説法を聞きに集まったといい、ご臨終を悲しむ様子が生き生きと描かれています。本来、人から疎まれる害虫であるムカデやマムシなどもいて、お釈迦様のみ教えは分け隔てなく全ての生けるものを救うという意味が込められています。
獅子(しし)
獅子は百獣の王ライオンのことです。画面中央の下部に描かれています。
『無量寿経』では獅子を須弥山王と説きます。獣の中の王という意味です。
獅子は、お釈迦様がなにも畏れることのないさまにたとえられます。また、獅子の吼え声は地を震わして遠くまで響き渡り、これを聞いた百獣はことごとくひれ伏すことから、外道の邪見を破摧するお釈迦様の説法をこれに喩えて「獅子吼」(ししく)といいます。
獅子は釈迦如来の脇侍、文殊菩薩の乗り物です。
象
象は、インドでは神の使いとして尊ばれており、仏教にもゆかりの深い動物です。画面の下部、やや左に描かれています。
伝説によれば、摩耶夫人が35歳の時、お腹にお釈迦さまを宿されたその前夜、六本の牙をもつ白色の像がお腹の中に入る夢を見たのち、釈尊を懐妊されたという話があります。
釈迦如来の脇侍、普賢菩薩の乗り物も同じく六本牙の白象です。
虎と豹(ひょう)
江戸時代の涅槃図には虎と豹が仲良く描かれている作例が多いといいます。当時の人々は虎がオス、豹がメスで二匹は夫婦であると思っていたそうです。
画面の下部、やや右に二匹並んで描かれています。
犀(さい)
犀はインドサイのことで日本には存在しない動物であることから、想像によって霊獣化した姿で描かれています。画面の左下あたりに描かれています。
犀は頭上に角を持ち、背中に亀のような甲羅を持っています。
犀の角は昔から解熱や解毒剤として珍重されていたといいます。
迦陵頻伽(かりょうびんが)
迦陵頻伽は極楽浄土に住む人頭鳥身の鳥とされ美しい声を持つといいます。画面の下、やや左に描かれています。
声が美妙であることで有名であり、その声は聞くものを飽きさせることがなく、さらには如来の音声を除いては天人なども及ぶことがないといいます。『阿弥陀経』には極楽浄土にこの鳥の住することが説かれています。
また、日本の雅楽にも迦陵頻伽を題材とした、「迦陵頻」という曲が伝わっています。舞は児童が四人で舞う童舞で、挿頭(かざし)をつけた天冠をかぶり、背に鳥の羽形に作ったものをつけ、手に持った銅拍子を打ちながら舞います。
<参考文献>
WEB版新纂浄土宗大辞典
WEB版 絵解き涅槃図 - 臨黄ネット
『よくわかる絵解き涅槃図』 竹林史博著 青山社
さて、数回にわたり涅槃図の絵解きを行ってきましたが、以上で一旦終わりたいと思います。まだまだ語り尽くせていないところも多く残っており、これからも涅槃図について勉強を深めていきたいと思います。今回の絵解きが近く開催される涅槃会への理解の一助になれば幸いです。
心行寺の涅槃図は縦270センチ×横160センチの絹地に肉筆で描かれた巨大な涅槃図です。軸心に延宝七年二月十二日(1679)十一世弁誉保残和尚代に、「芝・田町・札乃辻・表具師庄兵衛」と記録があります。
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